自作の小説など。

Step by Step  豊田元広・著

第2話(2)へ戻る
第2話(3)

 そうこうしているうちに、次の日曜日がやってきた。
 そこそこの人数を収容できる、学生向け多目的小ホール。そこで、今までの昼休み中庭ゲリラ(?) ライブとは一味違う、本格的な新歓ライブが催されるらしい。
 例によってたった一人で小ホールにやってきた。大丈夫か俺、ホントにこんなんでバンド組んでライブなんて出られるのか?
「おーい」
 なんか聞き覚えある声。振り返るとこの間の夕食会のときに一緒だった人だ。えっと、確か名前が……
「金山君だったっけ?」
「あ、はい。えっと、確か……」
 なんで同級生相手に敬語なんだ、ってツッコミがまた聞こえてきそうだ。
「秋田だよ。秋田(あきた)稔(みのる)。今日はよろしく」
「え?」
「おいおい、バンド組むんじゃないの!? 何やるとか決まってないの?」
「えっと……別に何でも良いかなー、って……」
「何でもって……カスタネットとかはできないぞ?」
「か、カスタネット? さすがにそんなのは……」
「冗談だよ冗談! でもギターとか、ドラムとか、その辺は考えてないの?」
「あ……まぁ、キーボードぐらいなら……とは……」
「そっかそっか。俺ドラムやるし、後でよろしく!」
「あ、どうも……」
 ほどなく会場の照明が暗くなり、ステージのソデから、バンドのメンバーと思しき人が出てきた。見覚えのある先輩さんも何人かいる。
「こんにちはー、『にじいろシスターズ』でーす!」
 そんな感じで、目の前では何バンドかが次々とあらわれて、それぞれに演奏を披露していく。
 自分の知っているアーティストのコピーバンドっぽいのもあれば、洋楽っぽくて、ボーカルの人が英語(っぽい)歌詞をひたすらシャウトしまくるようなものもあるし、ステージ上でギターを弾きながら寝転がって暴れまわり、例によって観客がそれにあわせてヘッドなんちゃらを繰り広げるバンドもありと、本当になんでもありのライブだったといえよう。

 そしてライブが終わった後、いよいよ俺たち新入生がバンドを組む番がやってきた。
「じゃぁ今から〜、だいたい一時間くらいで、何バンドでもいいのでバンドを組んでください! 組めた人から、バンドの登録をしてもらうんでこっちに来てください!」
という寺本さんの声によってバンド組みが始まった。

「ギターの人いませんかー?」
「誰かアサコやりたい人いませんかー?」
「洋楽好きなドラム探してま〜す!」
 新入生だけで六十人くらいいるだろうか。それだけの数の人間がこのホール内を縦横無尽に動き回って、気の合う人を見つけるらしい。俺にとっては無理難題以外の何者でもなさそうだ。
 そうだ、さっき言ってた秋田……
「へー、○※×△○&%が好きなんだー、じゃあやろうよ」
 ……は、なんか別の男子数名と、なんだかよくわからない、聞いたことのない片仮名バンドをやるみたいな話をしている。どうしよう……

「ねえねえ、バンドまだ組めてないくち?」
 先輩さんに呼び止められた。
「は、はい……」
「何やりたいとかある?」
「い、一応……キーボードとか……」
「キーボード『とか』? えっと、やりたいアーティストとかある?」
「そうですね……一応……J―POPやJ―ROCKとかなら……」
「あー……日本語なら何でも、って感じかな?」
「そうですね、はい……」
「OK、じゃあ……探しに行こうか」
 後で思ったことだが、このとき俺は全然自己主張してなかったのだろう。そりゃ先輩さんも困るはずだ。

 かくして俺は、周りがどんどんバンドを組んでいく中、一人その中に文字通り取り残されたような感じになってしまい、先輩に引きずられるがままについていくことになった。
 大事なことではないかもしれないが何度も言う。俺は人と話すのが苦手。まして初対面の人相手となるとなかなか話せない。こっちから喋りかけるなんて不可能に近い。そんな人間が軽音なんていう、誰かと喋らなきゃやってられないようなことをやるってのが、そもそもの間違いだったんだろうよ。
 ほら、今もこうやって、俺は先輩に引きずられながら歩いている。周りの人たちはもうあらかたバンドを組み終えて、ホールの片隅で和気あいあいと喋っているのに、俺は何だ、市中引き回しの刑になってるような感じだぜ……。
 もう早くこのバンド組みパーティみたいなのを終わらせてほしい。そして俺はこのミスチョイスなサークルから消え去りたい……。

「あれ? 金山君まだバンド組めてなかったの?」
 そうやって先輩に引きずられているうちに、寺本さんにも声をかけられた。
「金山君ってさあ、確かなんでもやりたいって言ってたよね?」
「え、ええ、はい……」
 さっきから俺を引きずってきてくれた先輩さんが「おいおい……」みたいな顔でこっちを見ている気がしたが、気がしただけだと信じたい。
「だったらさあ、この子達と一緒にやってみない?」
 そう言って寺本さんは、後ろにいた女の子二人を紹介してきた。
「フォーステップスをやりたいらしいんだけど、なかなか人を集められないんだって」
 その寺本さんが紹介した二人の姿を見たとき、俺は一瞬目を疑った。
「こっちが藤原千里さんでボーカル希望。その隣が稲葉(いなば)輝代(てるよ)さんでキーボード」
第2話(4)へ
戻る
inserted by FC2 system