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Step by Step 豊田元広・著 | |
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第1話(2) 大学生活が始まって2週間経った。 1年生の間は、クラスも指定されて、ほとんど同じメンバーが、ほとんど同じ授業を受けることになる。 しかし大学というのはなんとも不思議なもので、ゼミのように発表があるものとは違い、壇上で教授が延々と話すだけ、って感じの講義ばっかり取っていると、その気になれば1日中一言も口にしなくても過ごすことができる。 え、なんでそんなのがわかるかって? ……俺がまさにその状態だったから。 合格前はあんなに強気発言していたのに、もともと自分から行動しようという性格に欠けていたこともあって、クラスの中でもほとんど誰とも話していない。 周りが話しかけてくれば自分も話すが、それ以外では自分から話す、ということがなかった。 積極的な人なんかは既に周りにたくさんの人が集まっていて、 「おはよー!あー、ハナちゃんのその服かわいー!」 「えへへ〜、昨日買ったんだ〜☆」 「いいな〜、でもアタシお金ないし〜……」 「でもマイって、そのままでも十分かわいいじゃ〜ん!」 「え〜、そんなことないって〜!」 とか、 「マジだりー……」 「俺もー……」 「アイツの講義聴いてるとα波感じるんだよな……でも寝るとぶち切れられるし……マジありえねー」 ……って感じで、早くも打ち解けた者同士、たわいもない世間話を繰り広げている。 自分もその輪に入りたい……だけどいつも一歩踏み込めない。 「あーら、かーなやーまさーん! こんなところで何してるんですかぁー?」 あるテレビ番組のナレーターの物まねらしい口調で、6年以上も聞き飽きた腐れ縁の声が聞こえた。 「別に」 「冷たいなぁ」 「だってホントにやることねーもん!」 結局、昼休みにこうやって、学部が別々になった今も、俺は吉川とキャンパスの片隅にあるベンチで、弁当をつつきながら食事するのが通例になっていた。俺自身にとっても、このときが一番ホッとできる時間だった。おかしな話だけど、な……。 「そーいえばおまえさぁ、昨日球場行ってきたんだろ? あの試合」 「昨日の試合は雨天中止だったけど?」 「嘘つけ、夜まで雲ひとつない綺麗な空だったろ」 「だからあんな試合なかったんだってば」 「お前……自分が応援したチームが負けたからって……ホントに現実を受け入れようとしないよなぁ……。こうやって大学に入っても自分だけの殻に閉じこもってるのか、滅多に高校時代のヤツら以外友達つくろうともしないし」 「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」 「うぐ」 ノリは高校時代とまったく変わっていない。 開放的かと思った大学生活に不慣れなせいか、本当は色々と自由な点がものすごく増えた(はず)にもかかわらず、逆に俺たちにとっては窮屈に感じていた。まぁ、特に吉川(こいつ)はその感情を強く持っているらしいけどな。でも俺もその流れについていってしまっている。 だからこそ、こうやって今もまるで高校時代のごとく過ごしているのである。 「こんにちはー、テニスサークルでーす」 そんな俺たちのところに、サークルの新歓の人が、男女数人グループになってやってきた。隣で「またか」みたいな、少し怪訝そうな表情をしている奴がいるが、そいつを横に放っておいて、こういうところだけは無駄に積極的な俺、その人たちの話に乗っかってみた。 「へー、テニスに興味あるんだ」 「はい……大学入ったらテニスかなぁ……なんて漠然とした思いなんですけど、はははっ」 「大丈夫だって! うちのサークルそんなテニス初心者いっぱいいるし」 「私たちがイチからテニス教えてあげるから大丈夫だよー☆」 「そ……そうなんですか」 「僕らは結構テニス以外にもたくさんイベントやってるから、すごい楽しい学生生活になると思うよ!」 「今日も夕方からグランドのほうで練習やってるから、興味あったらおいでよ!夕飯もおごるよ」 ――『楽しい学生生活』。 その言葉を聞いて、俺ははっとわれに帰った。 確か……入学する前は……大学って、高校時代のしがらみから解放されて、サークルとか、バイトとか、そういう学業以外のところでも青春を満喫できる……そんなイメージがあった。 ところが現実はどうだ。高校時代のしがらみにまだ自らしがみついているがごとく、その頃に比べても、まったくといって良いほど変わっていない。 どこで俺は道を誤ったんだ。 こんなはずじゃ…… こんな……はずじゃ…… 「こんなはずじゃ・・・ねぇー!!」 新歓の人たちが去った後、吉川に向かってそう叫んだのだった。 こうやってキャンパスの片隅で、そう、大学へきてまで、まるで高校時代の俺たちをそのまま大学に持って来たような現実が許せなかった。 |
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