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Step by Step 豊田元広・著 | |
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第2話(1) そもそも何で俺が軽音に興味を持ったかっていうと、これまた高校時代にさかのぼる。 あの頃の俺は、確かに美術より音楽のほうが成績よくて、それなりに音楽も好きで、ロック音楽とかはたまに聴いていたけど、本当に「たまに」しか聴いておらず、まして自分が楽器を弾いてみようなんて、思ってもいなかった。 文化祭とかになると、体育館からすごい重低音を響かせてライブしているのが、結構離れた校舎にも聞こえてくる。こんなんだと、体育館の中にいたら、それこそ、耳がおかしくなるくらいの騒音になってるんじゃないだろうか。 俺はそんな軽音が嫌いだった。もともと軽音部にいる奴らも、俺が苦手としていて、教師ウケもよくないような人ばかりで、「軽音なんて、俺の住む世界じゃない」と思っていたんだ。 それを変えたのは、クラスの中でも割と仲の良かった黒田(くろだ)一樹(かずき)だった。 俺が大学に受かってからしばらくたったある日、そいつがライブに誘ってきた。 「来週さ、この近くのライブハウスで、高3を送る『卒業ライブ』ってのやるんだけど来ないか?」 「ライブ? いや、俺、ライブはちょっと……」 「お前さ、そう言って文化祭のときも結局ライブ来なかったよな?」 「え……いや、あれは、その……」 「お前が軽音にどんな感情抱いてるのか知んないけど、ライブってのをぜんぜん知らないまま、頭ごなしに否定するのはどうかと思うけどな、俺は。それって『食わず嫌い』ってやつだろ?」 「…………」 「いっぺん来てみろって。チケット渡しとくから。別に、嫌なら来なくてもいいんだぜ」 一週間後、俺は結局ライブハウスに行った。あそこまで言われると、もし行かなかったら、あいつの性格的に、また後でなんか言われそうだったから。 中に入ると、薄暗い空間の向こうに、うっすらと青白い光に照らされたドラムやらスピーカーやら、いろいろな機材が置いてある。ギターらしきものも置いてあった。 (へぇ……ライブハウスって、こんなところだったのか……) 「おぉ、やっぱり来たな」 突然後ろから声がした。黒田だった。 「お前のことだから、来てくれると思ってたよ」 「まぁ、な……行かないとまた後でうるさいだろうし」 「どーいうことだよ、それ?」 「いや……まぁ、お前の言うとおり、一度見てもよかったかな、って……」 「そうかそうか。ま、楽しんでってくれよ。俺たちの出番はまだ先だけど、後輩たちのライブもあるし、それも見てやってくれ」 「あぁ。……っていうか、お前……」 「ん?」 「なんか……普段とイメージ違うよな……?」 「そりゃ、なぁ? まさかここまで来て制服でライブしたくもないし」 そのときの黒田は、渋谷とか原宿へ行っても十分に溶け込めるんじゃないかと思えるくらい、お洒落な格好をしていた。とてもじゃないけど、俺にはあんな格好はできない。 (やっぱり、住む世界が違うよな……。) 「じゃぁ、俺はそろそろ準備があるから行くよ。もうすぐライブ始まるから」 「え? あ、あぁ……。」 そう言って、黒田は「関係者・出演者以外立ち入り禁止」と書かれたドアの向こうへと消えた。 ライブが始まった。あれは高2だろうか、ステージの奥のほうから何人かが出てきて、それとともに客席からは拍手が沸き起こった。 「こんにちはー! 『ザ・ブルースカイ』でーす!」 「うぉぉぉぉっ!」 その歓声とともに、シャンシャンというシンバルの音から、演奏が始まった。 周りはノリにノッているようだったが、俺はその観客の中で、一人取り残されたように、ただステージに立つ後輩たちだけをボーっと見ていた。 しばらくして、黒田たちのバンドが出演する時間になった。折角なので、前で見ようと思って、一番前まで行くと、周りには、軽音部のメンバーとかが立っていて、セッティング中のバンドメンバーたちを見ていた。 黒田のリードギターからライブが始まると、その周りの人々が、例によってノリにノっている状態で、ある人は頭が痛くなるんじゃないかと思うくらい、斜め下を向きながら思い切り頭を振り回し、またある人は隣の観客と肩を組みながら、高く上げた腕を曲のリズムに合わせて振り回している。しまいに、後ろのほうにいた観客が前に出てきて、俺は、突き飛ばされるがままに後ろのほうへ持っていかれた。 ここまでくると、異様な空間としか言いようがない。でも、ステージ上で歌ったり演奏したりしている黒田を見ていると、なんだか楽しそうにも見えた。 ライブが終わって、ライブハウス近くのレストランで、ささやかな打ち上げが催されるということで、黒田に誘われたのもあって、ついていくことにした。 「で? どうたったよ、ライブは」 「とりあえず……耳がツーンと音を立てたまま治りそうにない」 「そんな感想求めてねぇんだよ! お前にとっちゃ生まれて初めてこうやってバンドのライブ見るんだろ? 『ここは迫力があった』とか『これにはびっくりした』とかねぇのかよ?」 「いや……なんつーか……観客あり得なくなかった?」 「何が?」 「いや……あの、俺の周りさぁ……曲の間中気が狂ったみたいに頭振り回してるのとか、おしくらまんじゅうみたいに押し合ったりしてるのとかで……。」 「頭振り回してるのは『ヘドバン』、おしくらまんじゅうは『モッシュ』っていうんだよ。バンドによっちゃ、そうやって観客側も盛り上がることがあるんだよ。逆に一番前まで来て、曲に合わせて何もしないってのがかえっておかしいくらいだぜ、お前みたいに」 「そうだったのか……。」 「まぁ知らなかったしな、仕方ないといえば仕方ないかもな」 「むぅ……あ、でも」 「ん?」 「なんか……お前見てると……なんか楽しそうに見えたんだけど、気のせいか?」 「あー……たまに言われるけど、実際ステージあがるとそんなの頭に入らないもんよ? 別に俺も、絶対楽しくライブで演奏しようなんて思ってねぇし」 「そうなのか……」 でも本当に、黒田も、他のバンドメンバーも、楽しそうにライブをしているように見えた。 それに、俺の変なクセで、そういうのを見ると、自分もその場所に立ってみたいなぁ、なんて感情を一瞬でも抱くことがある。 だから、そんな楽しそうな黒田たちを見たとき、俺もいつかは……って思ったんだ。 |
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