自作の小説など。

Step by Step  豊田元広・著

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第4話(1)

 次の水曜日。
 先週、毎週一回スタジオに入れば、来月のライブまで四回くらい練習ができるということで、同じ水曜日に毎週集まろうということになった。
 今日がそのスタジオ第一回。とりあえず六時半に部室集合ということらしい。
 というわけで、今日も先週と同じく、一限目に出なくてはならないので、朝早く家を出る。先週と違うのは、俺が普段のかばんとは別に、ベースという大きな物体を背負っているということ。先週と変わらないのは、ちょうど俺が玄関を出たのを見計らったかのように、俺の家の目の前を通り過ぎた幼馴染。
 ところが、その幼馴染は、門の前で俺を待つということもせずに、何も言わないまま、足早に駅のほうへ走っていってしまった。普段の俺なら走って追いかけることも難しいことではないと思うが、何せ今日の俺は不慣れな重い荷物を肩に担いでいるので、思うように走ることができない。
 ……何か急ぐ用事でもあったのかな?

 朝ラッシュ時ということで、非常にたくさんの客が乗る急行の車内で、俺はベースを左肩に担ぎ、右手にはカバン(ベースの付属品やら何やらを詰め込んで、重さは絶賛増量中)を持って乗り込むという無謀な真似をせざるを得ない。さすがに肩に担いだベースは手に持っているが、身動きの取れない車内でこんなたくさんの荷物を持っている客はそんなにいない。なんか……通勤の皆様からの……視線が……痛いです。
 へとへとになりながら電車を乗り換え、なんとか大学にたどり着く。
 そして午前の授業が終わった頃、一通のメールが届いた。

【差出人】吉川雅夫
【件名】件名なし
【本文】久々に、昼一緒に食べないか?

「おやおや、かなやまさーん、今日はどちらへ〜?」
 またなんかのテレビ番組の有名なナレーションを真似したような台詞からおれと合流した吉川は、俺が肩に担いでいる黒い物体に気づいたらしく、
「ちょ、お前なに持ってるのさ!?」
「ベースだけど?」
「え、あんた、軽音に入ったの!?」
「ああ」
「なんで!?」
 そういえば、明軽に入ってから、こいつと会ってなかったなぁ。なんだかんだで、こいつもあれだけ嫌がっていた大学生活に慣れてきたらしく、キャンパス内で見かけたときも、見ず知らずの人間と一緒に歩いている光景を何度も目撃している。
「なんでって……成り行き」
「成り行きぃ?」
「ああ、成り行きだ」
「いやー、まさかお前がそんな形で大学デビューするとはなぁー」
「大学デビューって……ただ単に軽音サークル入っただけじゃねーか」
「いやいやー、大学入学の頃叫んでおられたように『変わる金山さん』をこの目で直に見られると思うとワクワクして夜も眠れま……いてっ!」
 なんかムカついて、気がついたら飯を食べ終えて空っぽになっていたコンビニ弁当箱で吉川の頭を叩いていた。
「でも軽音でバンドやるって、きっと女の子にモテモテなんでしょうなぁ……彼女出来たら真っ先に俺に報告して……いてっ!」
 さらにムカついて、叩くものが空っぽの弁当箱からまだ微妙に中身のあるペットボトルに変わった。
 ただ、「女の子にモテモテ」という言葉が俺は少し引っかかった。そういえば高校の頃、軽音にいたヤツらって、男子校にもかかわらず大概彼女持ちだったような気がする。黒田も……確か「真理(まり)香(か)ちゃん」とかいう彼女がいたんじゃなかったっけ。
 確かに俺が行こうと思ったテニスサークルとか、軽音サークルとかって、結構女子も多いイメージがあって、その中でお付き合いなんかも多いんじゃないかって勝手なイメージを抱いている。
 果たして俺はどうなんだろう、そんな風に俺も……なれるんだろうか?
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