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Step by Step 豊田元広・著 | |
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第4話(3) 「はい、では答案を後ろから前に送って下さい。また来週から通常の授業に戻りますから、例によって続きのページから予習を……」 ドイツ語の小テストが終わった。まぁ昨日の夜から今日の昼にかけて詰め込んだ内容は殆ど紙の上に吐きだしたから、おそらく不合格、ということにはならないだろう。さて、帰ろう…… そう思って、荷物をまとめて校舎を出たところで、 「金山君?」 「あ、どうも……」 そこにいたのは、稲葉さんだった。 「チー、どっかで見なかった?」 「ちー?」 「あぁ、千里……藤原千里のこと」 「あ、ああ……いや、見てないですけど……」 「もう帰っちゃったのかなぁ……? さっき部室行ったけど先輩にいないって言われたし……」 「はあ……あ、携帯とかで連絡とかはつかないので?」 自分で言っておいてなんだが、つかないので? とか、中途半端に敬語混じったような不思議な言葉使うなよ、俺。 「いやー、それがね、いくら電話しても繋がらないのよ。あの子、講義中は律儀に電源切ってるから、切ったまま忘れてるんだと思うんだけど……」 「そうなんですか……」 そう言いながら、俺もカバンから携帯を取り出し、電源を入れ直す。まぁ今日は小テストもあったから、尚更当たり前のように電源を切っていたんだが、標準的な大学生は、講義中でも平気で電源を入れておくのか……? 「ところで、金山君、これから暇?」 「え? えぇ、まぁ……」 暇というか、やることがないと言うべきなのか。まだバイトもないし、本当は家に帰ってベースの練習でもしてもいいんだろうけど。 「じゃあさぁ、ちょっと駅まで一緒しない? いつもチーとはぐれたときは駅前のカフェ、って決めてるから」 「は、はあ……」 そう言うと稲葉さんは、携帯の電源を切っていると思われる相手にメールを送った。 「藤原さんと……すごく仲良いんですね」 「え? あぁ、まあね」 「高校が……同じだったとか?」 「あ、ううん、高校は違うの。私は多摩が丘高校。ただ、高三の時に受験で通ってた塾が一緒だったから、そこからの仲かな」 「へぇ……」 「あの頃からあの感じは変わってないよ。むしろもっとひどかったかも」 その頃の藤原さんって、どんな感じだったのだろうか。今でも結構人と話すのが苦手そうな感じだけど、その頃はもっとひどかったとなると、人とまともに会話できないとか、そんな感じになってしまうのかな……? まだまだ俺の知らない藤原さん、ってところも、当然のことながら数え切れないほどあるわけで、今、稲葉さんからその一部を教えてもらった、という感じだ。 「あの子も、このバンド組むようになってから結構色々話すようになったかな、って思うの。昨日レストランであんなに喋ってる姿、久しぶりに見たから……」 「……え?」 「普段あまり話さない子だから、聞き手に回ることが多いんだけど、まさか自分から他人にSunnySideの話をするなんて思わなくって、ちょっとびっくりしちゃった」 「そうだったんですか……」 じゃあ、なんで藤原さんは俺に対してあんな色々喋りかけてきたんだろう。俺が、水原泉のような人がタイプだと言ったから? それとも、たまたま俺の出た学校が、藤原さんの弟が行きたかったという港だから? 「あ、なんかごめんね、重い話しちゃ……あ、メール…………チー、やっと気づいたか……」 どうやら藤原さんがメールに気がついたらしい。 「じゃあ私ここでしばらく待つから……ごめんね、無理につきあわせちゃって」 「あ、いえ、いいんですよ。それじゃ……」 そう言って俺たちは、駅前のカフェ前で別れた。 ……ターミナル駅で電車を乗り換えたあたりで気づいたが、俺も一緒にカフェで待てば、後から来た藤原さんと普通に話できたんじゃね!? うわー、バカだ俺、何やってるんだろう…… 一人の乗客が後悔と自己嫌悪という嫌な気分を背負ったところで、電車が止まる筈もなく、気がつけば我が家の最寄り駅。なんだかんだで、この最寄り駅は、ベッドタウンとして、県内でも有名な住宅地なので乗客がかなり多い。俺もそのご多分に漏れず、電車からはき出された人混みの一員となる。 ちょうど反対側のホームにも電車が来たようだ。時間は夜八時を回っている。この時間帯にこうなると、改札口はとんでもないことになる。 たくさんの乗客がホームから階段を上がり、改札口へ向かう。その流れに乗りながら、俺もゆっくりと歩いて、定期券を準備しようとしたそのときだった。 この人の流れの前の方に、見覚えのある髪型が見えた。結構長い、少し茶色がかった髪を後ろでポニーテールにまとめている。あいつ……だよな? 昨日の夜、遅くまで部屋を明るくしていた…… 人混みをかき分けるようにして、俺はそのポニーテールの女性を追いかける。別にポニーテールの女性なんて世の中にはごまんといるわけだが、何となく俺の勘が、俺に追いかけろと叫んでいる。 ただ、そのポニーテールの女性は、普段俺たちが家に帰る方向と反対側に進んでいく。気になって少し小走り気味に、その女性を追い越して、軽くチェックしてみたところ、残念ながら俺の勘は外れていた。 ……なんで俺、こんなに朝倉のことが気になっているんだろう。昨日から、なんかおかしい。朝、単に俺の目の前を素通りされただけなのに。 |
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